主にランニングの障害として知られている腸脛靭帯炎ですが、発生原因を理解し、身体の使い方を変えていく事で障害を予防・克服することが出来ます。
他の競技でも発生しない事もないのですが長距離のランニングで生じる事が多いため、ここではランニングを中心として書いてあります。
テーピングも記載してありますので参考にしてみて下さい。
また似た部位のスポーツ障害に大腿二頭筋腱炎もありますので、迷ったら両方見比べて下さい。
鑑別についても書いてあります。
腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)とは
腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)は大殿筋・大腿筋膜張筋から膝をまたいで脛骨の上部外側に付着します。簡単にいうとお尻の筋肉から太ももの外側を通って膝の下につく硬い組織です。いわゆる「モモカン」が入るところですね。
(骨盤の腸骨と下腿の脛骨を結ぶため腸脛靭帯と呼ばれます)
機能としては身体の外側に壁を作ることで必要以上に外側にぶれるのを防止します。
さらに過度な膝関節の内反と下腿の内旋を防止します。
また膝の角度により屈曲と伸展動作の役割が変わる組織になります。
膝の内反:膝から下が内側に傾く動き
下腿の内旋:スネの骨が内側に捻じる動き(つま先が内側を向く)
その腸脛靭帯の炎症を腸脛靭帯炎と言い、主にランニングのスポーツ障害として有名で膝関節外側のやや上の大腿骨外側上顆と呼ばれる部位で摩擦により腸脛靭帯およびその下の滑液包or脂肪組織に痛みを訴える疾患になります。
似た部位の障害で大腿二頭筋腱炎がありますが、これは膝よりやや下になります。判断に気を付けましょう。
腸脛靭帯炎の症状
症状の悪化に伴い「ランニング後の痛み→ランニング中の痛み→歩行の痛み」となっていきます。
患部の圧痛もあります。
更に筋肉の緊張により圧痛が患部以外、特に大腿四頭筋外側広筋、大腿筋膜張筋、大殿筋にまで現れる事があります。
のぼり坂で症状はおさまりやすく、下り坂では症状が出やすい事もあるようです。
腸脛靭帯炎の原因
基本的に腸脛靭帯が膝の上で膝を曲げ伸ばしによって、骨と擦れる事がメインの原因となります。
骨と擦れる筋肉が練習で張ってきたり、引っ張ったりするなど書かれていることがありますがそれは正しくありません。
そもそも筋肉が硬くなるのに原因が何かを理解しないといけないのです。決して筋肉が硬いなどが大元の原因ではないので、いくら筋肉をストレッチやリリースを行っても一時的な対応でしかありません。
もちろん症状が軽度の場合は一時的によくなるかもしれませんが、運動を続けると痛みが再発する事が少なくありませんし、実際経験した方も多いでしょう。
ここでは筋肉が硬くなるのが原因とは考えずに筋肉を硬くしてしまうランニングフォームが原因と考えます。
もちろん、ストレッチやリリースは痛みの軽減に繋がるので行いますが、正しい原因を勘違いをしないようにしましょう。
では、続きをどうぞ。
腸脛靭帯炎はランニングフォームで起こる事が圧倒的に多いです。
詳しく説明しますと解剖学・運動学の知識がないとややこしくなってしまいますので、ここでは簡単に説明させて頂きます。
ランニング時、膝の屈曲伸展(曲げ伸ばし)で腸脛靭帯と大腿骨外側上顆が摩擦により炎症を起こし痛みとなります。
通常の立位ではtoe‐in、いわゆる内股であることが多いです。
普段かた内股で生活しているため、股関節の内旋可動域が大きく外旋可動域が小さいのも特徴になります。股関節の外に開く動きが苦手ということですね。
メインの原因は内股と考えてもらっていいのですが、他にも常に同じ方向でランニングしていたり(グラウンド)、すり減ったシューズを履き続けたり、足の柔軟性が乏しい為にフォームが崩れたりなども原因となるでしょう。
腸脛靭帯炎の診断
ランニングや長距離を普段よりしていて、大腿骨外側上顆周辺に痛みを訴える場合、腸脛靭帯炎が強く疑われます。
またテスト法により緊張が強いタイプと緊張が弱いタイプに分類され、それによりリハビリが変わってきますので注意しましょう。
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グラスピング(コンプレッション)テスト
腸脛靭帯に意図的に痛みを発生させることで検査をします。
腸脛靭帯を外側上顆部で押さえ、膝関節伸展に伴い痛みが発生した場合、陽性とします。
オーバーテスト
大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の拘縮・短縮をチェックするテスト方法です。
患者を痛い方を上にして横向きに寝てもらい、力を入れないようにしてもらいます。(この時、下の足の股関節・膝関節は軽度屈曲します)
そこから膝関節屈曲90°、股関節最大外転位(足を外に開いた状態)まで検査をする人が持っていき、手を放します。
手を放しても足が下がっていかないor途中で止まるなどがあった場合陽性とします。
注意点として骨盤が動くと正しい検査になりませんので、骨盤は手でしっかり固定します。
グラスピングテストとオーバーテストで陽性の場合は高緊張型、
グラスピングテストで陽性だがオーバーテストが陰性の場合は低緊張型となります。
高緊張型の場合膝の皿が健側と比べ外側を向いている事もあります。
これは大腿四頭筋の内側広筋に比べ外側組織、つまり腸脛靭帯や外側広筋が強いためです。
低緊張型の場合は膝周囲がゆるい可能性がある為、膝の内反テストを行う事で判断をより正確にします。内反テストで膝が健側と比べて安定感がなくゆるい場合は低緊張型の疑いが強くなります。
膝内反ストレステスト
膝を伸ばした状態で患者の膝の内側に一方の手を当てて、反対の手を外くるぶしに当て、膝から下を内側に持っていきます。
反対側と比べ、内側にいく角度が強い場合陽性です。
足荷重テスト
立った状態で膝を30°程曲げて完全に体重を乗せると痛みが誘発されやすです。
さらにその状態で患部周囲を圧迫するとより症状が出やすいと言えます。
腸脛靭帯炎の治療やリハビリ
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何もしなくてもジンジンするなど、炎症が強い場合は他の障害と同様にアイシングなどを行います。
また一時的に炎症が治まったとしてもフォームの修正を行わないと再度痛みがぶり返し、何度も同じ状態になってしまいますので、リハビリをしっかりしましょう。
リハビリ中は症状の悪化を防ぐためにできるだけ痛みがでる動作を避けるようにします(意図的な膝の屈伸など)
下記のリハビリを行いますが、ゴールはランニングフォームの改善になります。
患部の炎症具合に合わせて行います。
高緊張型
殿筋・大腿筋膜張筋・腸脛靭帯の緊張が強いため、緊張をとるために&柔軟性を改善するためストレッチングや筋膜リリースを行います。
腸脛靭帯は大殿筋・中殿筋・大腿筋膜張筋と関連が強いため、これらの筋肉を中心に行います。お尻周りですね。
また腸脛靭帯の緊張が進めば外側広筋の緊張も進む構造になっており、下記にあります脂肪体の炎症にも繋がりますので、そちらのケアもしておきたいところですね。
セルフで行う場合はタイガーテールがおすすめです。
モモの前(大腿四頭筋)との境目を行うと効果的です。
低緊張型
関節がゆるいことで、腸脛靭帯が膝周囲の安定を図るために過活動になり痛みを生じてきます。
膝・股関節周囲の筋出力エクササイズを行いましょう。下をご覧ください。
腸脛靭帯炎のリハビリ
腸脛靭帯炎のリハビリは内股を防ぎ、股関節と膝関節を安定させる必要があります。
その為には股関節外転筋をしっかり活動させる必要があります。下記のエクササイズを参考にして下さい。
「膝・股関節のスポーツ障害やケガを予防する”股関節外旋エクササイズ”」
筋肉で股関節・膝関節を安定させて横ぶれを防ぐという事ですね。
外転筋トレーニングが出来て来たら、動かしての要素も加える為にサイドステップも行いましょう。
ランニング開始の際の注意点
リハビリが順調に進みランニングを開始するとなった時の注意点として、トラックで行う場合は回る方向により症状が悪化してしまうことがあります。
できるだけ患側がイン寄りになりように走りましょう。
(右の腸脛靭帯炎の場合は右膝を内側にするため、右回りで走る)
イン寄りで走ることで、意図的に下腿の内旋を抑制することが出来ます
ステップエクササイズで股関節、膝関節の動きの確認
最終的にはステップテストなどで股関節や膝関節が内旋しないようにチェックしましょう(内股になっていないか)
そして正しいステップを踏めるように繰り返し足の使い方を学習しましょう。
他の障害のリハビリでもそうですが、リハビリ最中に痛みが出ないことが前提になります。
腸脛靭帯炎のテーピング方法
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股関節外側から、脛骨上部外側まで腸脛靭帯に沿ってサポートテープを行います。
腸脛靭帯は大殿筋と大腿筋膜張筋からなりますので、テーピングは2本貼る方がよいでしょう。
横向きで患部を上側にします。その際患部の膝をベッドや床に付けましょう。
でん部や斜め後面と骨盤の横を目安に貼り始めましょう。
<クリックで拡大>
今回はマルチポアスポーツのテーピングを使用してあります。
選手目線のテーピングの比較記事はこちら
他におすすめのテーピング記事はこちら
テーピングを貼る時の注意点のまとめはこちら
【さいごに】
これは補足レベルですが、もう一つ腸脛靭帯炎の原因であろうと考えられている事がりあります。
それは脂肪組織の炎症ですが、大腿部外側には筋肉や骨に囲まれた区画が存在します。
外側を腸脛靭帯、内側を大腿骨、近位部(上)を大腿四頭筋外側広筋、遠位部は一部大腿骨外側上顆で囲まれます。
この中に脂肪体が存在します。外側広筋の緊張が進むことで、この区画の内圧が上昇し脂肪体が圧迫されていく事で腸脛靭帯炎に普及するという考えもあるようです。
一種のコンパートメント症候群ですね。
しかしまだ補足の段階のお話になりました。
最後におまけとして腸脛靭帯はヒト以外の哺乳類には存在しないとのことです。
二足歩行に必要な組織ということですね。
また近い部位の障害に大腿二頭筋腱炎がありますので、よろしければ目を通して下さい。
意外と重要な「腸脛靭帯炎」の説明は以上になります。