投球障害の中でも肘関節の負担が強く関与する有名なスポーツ障害に野球肘があります。
実は野球肘というのは大きなくくりで、肘内側不安定症(内側型)と上腕骨小頭障害(外側型)に分類されます。
今回は肘内側不安定型、つまり内側型の説明を行っていきます。
ちなみに外側型は内側型が進行して生じる事が多いため、内側型でしっかり対応する事で症状の進行を押さえましょう。
(外側型はこちら→「野球肘外側型」)
もちろん一番は内側型にもならない事ですので、予防が最重要であることを忘れないで下さいね。
ではどうぞ。
野球肘(内側型)とは
野球での肘内側組織に亜急性、つまり一度の損傷でなく、繰り返し負荷をかける事で生じます。
内側組織の損傷は発症年齢によりことなるようです。
■12歳ごろまで
内側側副靭帯の付着部である上腕骨内側上顆部の裂離・分離
■13.14歳
上腕骨内側上顆骨端線離開
■15.16歳
尺骨鈎状結節離開
■16歳以上
内側側副靭帯損傷
これらは症状を訴える部位が近いですが、しっかり圧痛とテスト方法で判断できますので、以下を参考にしてチェックして下さい。
野球肘内側型の症状
基本的には投球動作で肘内側に痛みを生じます。
初期では練習後の肘内側部の痛み、圧痛。
進行すると練習中の痛み、日常生活での痛みとなっていきます。
そして十分な靭帯としての役割を果たせなくなりますと、肘外側の障害へと進行していきます。
野球肘内側型の原因
肘の内側が痛くなる原因は大きく分けて2つあります。
内側側副靭帯損傷・上腕骨内側上顆裂離骨折
繰り返し加わる、肘への外反ストレス。
(肘の外反=肘を支点として肘より遠位の部位が外側にいく動き)
ちなみに内側側副靭帯は肘の外反を防止する大事な安定化機構となります。
投球では主に加速期の前後で外反ストレスが強くなります。
初期は内側側副靭帯損傷ですが、症状が進行するにつれ剥離骨折となります。
しかし裂離骨折までいくことは多くなく、ほとんどの場合は内側側副靭帯損傷でストップがかかるでしょう。
前腕屈筋腱炎
投球時、手関節の屈曲(手首を曲げる動作)を強く行うことで生じます。
投球時の手関節の屈曲はフォロー時、ボールを投げる際に必要になります。
肘の内側からは画像の様に多くの筋肉が出るので、その分負担も大きくなります。
野球肘の診断
野球をしていて肘内側組織の痛みがあり、肘外反ストレステストで陽性がある場合内側側副靭帯損傷が疑われます。
ただどのぐらい症状が進行しているか?の判断は画像(レントゲンやMRIなど)があった方が信頼性が上がるので、あまり長い間痛いようなら整形外科などで検査が必要でしょう。
スポンサーリンク
スポンサーリンク
肘外反ストレステスト
肘関節の屈曲30°、60°、90°でそれぞれ肘関節に外反ストレスを与えます。
特に90°では強いストレスを与えることになりますので慎重に行いましょう。
支点(肘の外側)に手を当て、肘から先を外側にもっていきます。
そのさい、肘の内側に痛みを訴えれば陽性です。
野球肘内側型の治療/リハビリ
スポンサーリンク
スポンサーリンク
症状に合わせて治療を行います。
炎症があるようならアイシングを行い、炎症の様子をみてリハビリを開始します。
投球障害予防エクササイズ
肘関節のみに治療を絞って痛みが治まっても、原因である肘の過度な外反ストレスがかかる投球フォームを改善しない限りは、何度でも痛みが出てくるでしょう。
投球の基本である下肢から投球が崩れていないか確認することが必要になります。
具体的には「投球障害予防エクササイズ」をご覧ください。
進行して内側側副靭帯の機能が弱くなると、前腕屈筋群(特に長掌筋、円回内筋、浅指屈筋、尺側手根屈筋、橈側手根屈筋)に過度なストレスが加わる為、これらの筋肉のケアも忘れないようにしましょう。
また、筋肉のケアと同様に大事なのが筋出力です。筋肉をしっかり使うということですね。
症状の経過に合わせて肘周囲の筋出力を正しく行う事で、肘関節を”シメル”事で安定化を図ることもできます。
筋出力のやり方
特定の筋肉ばかりに負荷がかかっているとバランスが崩れてよくないので肘関節周囲筋の筋緊張を整えます。
1㎏程の軽い重りを持って行います。痛みが生じる場合は重りを持たずにゆっくり行いましょう。
手関節のみで行うように注意して下さい。肩関節や肘関節が動いては効果がでにくです。
(肘関節に関与する筋肉の多くは手関節の動きに関与しますので、手関節が大事になります)
座った状態で
肘関節屈曲位で前腕の回外・回内動作
肘関節屈曲位で手関節の屈曲・伸展
画像ではちょうどいいのがなく代用しましたが、本来はダンベルのようなシャフトが持ちやすくてよいでしょう。
これはシャフトは0.6kgですが、比較的安価なので購入しやすいかと思います。
またはこのようなタイプでもいいでしょう。重さもちょうどいいでしょう
これ以上だと2.5kgのものが多く、少し負荷が強すぎるかもしれません。
肘関節の外反を制御する筋肉のフォロー
肘の内側(厳密には上腕骨)から始まる筋肉は一部肘の外反を制御しています。
しかし野球肘になり負担がかかりすぎますと、この筋肉群も過負荷により損傷してしまいます。
ストレッチ・リリース・上記の筋出力でフォローしましょう。
詳しくは野球肘のセルフケア・治療をご覧ください。
野球肘内側型のテーピング
肘の過度な外反を予防するテーピングを行いますが、外反予防テープを行った状態で投球を過度に行うと他の筋組織に過度な負担が掛かる為注意して下さい。
個人的には強いテーピングをしっかりしたままの投球はおすすめしません。軽めならばよいでしょう(テンションのかけ方の問題です)
行うのなら負担のかかりやすい、前腕の屈筋に対してサポートテープを行うのがいいかもしれませんね。
野球肘のテーピング方法
前腕屈筋に対して伸縮性のテープを行います。
肘伸展位、手関節軽度背屈位で肘の内側から画像の様にテーピングを行います。
(肘伸展位=肘を伸ばした状態、手関節背屈位=手首を爪側に上げた状態)
画像では二本しか貼っていませんが、③の矢印にも貼った方がいいでしょう。
テーピングの種類については「テーピングの種類とおすすめのテーピング」をご覧ください。
選手目線のテーピング比較記事はこちら
スポンサーリンク
スポンサーリンク
野球肘内側型の注意点
野球肘は多くの場合内側型から症状が出て、そのまま進行してし重症型である外側型に移行する事がああります。
外側型は離断性骨軟骨炎と呼ばれ骨の問題になる事が多く、それこそピッチャーを続けることが難しい事もあるので注意が必要です。
くれぐれも痛みが出たら早期に治療・リハビリをし、悪化を防ぎましょう。
ちなみに進行してしまっている場合腕の内側だけでなく、外側組織が硬くなっている事も多々あるので、そちらのケアも必要となります。
外側組織の緩め方も載ってます→野球肘のセルフケア・治療
【さいごに】
野球肘はテニス肘と同様典型的なスポーツ障害ですが、正しい知識を持つことでリスクを減らすことができます。
正しい知識を持つことが必要なのは親でも本人でもなく、指導者であることは間違いありません。
体形も成長期であるため個人差はかなり出るものです。その個人差がある年代に同じ投球数を行う事が正しいことでしょうか。
肘が下がっているから肘を上げろ。
ならなんで肘が下がってしまうか考えてあげましょう
このスポーツ障害である野球肘を減らすためには指導者のスキルアップが必要不可欠だと私は常々感じています。
以上で「野球肘(内側型、初期)」の説明を終わりにします。