「腕を引くと肩の前が痛い・・・」
「ズボンを上げる時に肩が痛む。」
こんな症状の方は上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんえん)かもしれません。
はじめて聞く名前かもしれませんが、スポーツ選手に限らず多くの方がこの疾患で悩んでいます。実際にこの疾患聞いた事がある方はいますか?
今でこそネットで検索すれば多くがヒットしますが、まだまだ知らない方も多いかと思います。
そこで今回は肩の前の痛みの1つである上腕二頭筋長頭炎について解説していきたいと思います。セラピスト向けの内容も用意してありますので、是非ご覧ください。
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上腕二頭筋長頭腱炎とは
上腕二頭筋長頭炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんえん)とは力こぶの筋肉である上腕二頭筋が上腕骨の結節間溝というトンネル状の溝を通るときに擦れて痛みが出る疾患です。
腕を引いたり・肘を曲げたりすることで結節間溝部で摩擦の刺激が加わり炎症が起こることが多いですね。
<上腕二頭筋とは>
上腕二頭筋は筋肉の名前で言うと有名で聞いたことがある!って方も多いかもしれませんね。ですがここでは改めて説明させて下さい。
上腕二頭筋とは上腕骨の表面にある上腕二頭筋は力こぶをつくる筋肉で、二頭ということから頭(筋肉の出だし)が二つ、長頭と短頭が有ります。
- 赤:長頭
- 緑:短頭
- 赤○:痛みを生じる部位(結節間溝)
この長頭腱が結節間溝部を通り炎症が起こる為「長頭腱炎」という名称になります。
ちなみに2つの頭があると言いましたが、もう1つは短頭と呼ばれます。
上腕二頭筋長頭腱炎の症状
上腕二頭筋長頭炎の症状は運動痛と結節間溝部の圧痛が特徴です。
特に運動痛は腕を身体の後ろに持っていく動作、また後ろから前に戻す動作で痛みが出やすいです。
もちろん炎症ですので症状が強ければ何もしないのに痛む自発痛も起こり、動かすのも辛くなりますが私の経験上そこまで重症化するのは稀です。
ただ日常生活で気になったり、何気ない動作でも痛みが出てイライラすることはあるかもしれませんね。例えばズボンを上げたり、物を持ち上げたりで痛みは出やすでしょう。
洗濯物や重い荷物を持つなどの動きをするたびに患部に痛みが現れたり、中には夜間に痛みが増すこともあります。
上腕二頭筋長頭腱炎の原因
上腕二頭筋長頭炎は繰り返しの刺激で痛みを生じるもので、急性外傷として発症するのは稀です。
日常生活でも十分に起こる可能性があるので「あれ?いつも通りで負担は強くなっていないはず」と思っている人でも痛みが出る事はあります。
上腕ニ頭筋長頭腱炎の好発年齢は30才から50才代の男性に多く、以前までは重いものを持つ仕事の人に多いとされてきましたが、現在ではスポーツをする子にも多くなっています。
今まで施術させていただいた感じだと上腕二頭筋自体に張りがあったりするよりも、骨盤から背骨、そして肩甲骨の動きが悪い人に多いです。ですから上腕二頭筋を単純にマッサージをしたから完治し再発しないわけではなく、痛みが出ない動き作りが大切になります。
特に普段から猫背の方は背骨の動きが悪くなりますが、背骨の動きが悪いと肩甲骨の動きが悪くなります。肩甲骨が動かない状態での腕を後ろに引く、バックスイングは腕の前に強い負荷がかかる為上腕二頭筋長頭腱炎になりやすいと言えます。
上腕二頭筋長頭腱炎が多いスポーツ
スポーツでは、野球やバレーボール、水泳、テニスなど身体に対して腕を後ろにもっていく動作、いわゆるバックスウィングが必要な競技でよく発生します。
そしてまだまだ「使いすぎ」という認識は強いようですが、もちろん骨格なども問題もありますが、同じだけ使っても痛みがでない人も居ます。
大体のこの手の疾患は「よくない動きで使いすぎ」で生じます。
この良くない動きというのはバックスウィング時、胸椎や肩甲骨の動きが出にくい状態のため、腕のみでの動作をいいます。原因でも書いている背骨―肩甲骨―上腕骨の使い方が悪くなっているってことです。
上腕二頭筋長頭腱炎の検査と診断
患部の圧痛に加え下記の検査で痛みが出た場合、上腕ニ頭筋長頭腱炎の可能性が高くなります。痛みは出るところは肩関節前面になり、他の部分で出た場合は陰性となりますのでご注意ください。
ヤーガソンテスト
肘関節を90°に曲げた状態で肘から先を外側に捻らせ、検査者は内側に捻るように抵抗をかけます。
このとき肩関節の前面(結節間溝)に痛みが生じた場合、検査は陽性となります。
これは上腕二頭筋の機能である肘を曲げて前腕部を外に捻じるという動作に抵抗をかける事で痛みをチェックしています。
スピードテスト
肘関節を伸展・回外位(手の平を上に向けた状態)で肩関節を屈曲(上に挙げる)させていき、検査者は後ろへ向かって抵抗をかけます。このとき肩関節の前面(結節間溝)に痛みが生じた場合、検査は陽性となります。
個人的にヤーガソンテストより、スピードテストの方が反応は得やすいかと思います。
より反応が出やすいスピードテスト
通常のポジションより上腕部を後ろに引いたポジションから行う事で、上腕二頭筋長頭にストレスをプラスします。しかしストレスが大きくなりやすい為、ゆっくり行うなどの注意が必要です。
個人的にはヤーガソンテスト→スピードテストの順で行い、そこまで陽性であったら上腕二頭筋長頭炎の可能性が高まります。
しかし何とも言えない場合、このテストを行う事で判断をより正確にします。
上腕二頭筋長頭腱炎の治療とリハビリ
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患部の痛みが強く、自発痛がある場合はアイシングを行います。とりあえずは痛みのコントロールですね。
そして投薬は鎮痛剤や抗炎症剤となります。ステロイド剤の注射も行うこともあるようですが、頻繁には行わないでしょう。
リハビリは長頭腱に対して負担がかからない身体の使い方にしていきます。
胸椎の伸展と肩甲骨の内転がしっかり行えない状態でバックスウィングを行うと、腕のみでスウィングすることになります(厳密には腕のみということはありませんが、ここではイメージしやすいようにあえて上記の様に表現してあります)
そうすると簡単にいうと「関節が極まった」状態に近くなり、肩関節前面にある上腕二頭筋長頭腱が過伸張とブレーキを受け摩擦が生じ、炎症から痛みとなります。
なのでまずは胸椎の可動域をしっかり確保し、肩甲骨と上腕骨とのバランスをしっかりとれるようにエクササイズ・指導を行います。
胸椎伸展・回旋エクササイズ
胸椎の伸展ができないと肩甲骨の内転もうまくできません。そうすると結果、上腕二頭筋の負担が大きくなりますので胸椎のエクササイズもきちんと行いましょう。
専用ページも一度ご覧ください。
→背骨ストレッチのやり方はここで確認
深呼吸
しっかり胸椎・胸郭を意識して、胸で呼吸しましょう(胸式呼吸)。
上肢を挙上して行うとより効果がでます。
パピーポジション
深呼吸と並行してパピーポジションを脱力して行います(腰部に対してではなく、胸部に対して行うので角度は軽め)
腰の筋肉は脱力しましょう。自分では判断が難しいので、パートナーに触って確認してもらうといいですね。
また脱力が難しい場合、胸の前にクッションなどをいれる事をおすすめします。
肩甲骨内転エクササイズ(大胸筋・小胸筋のストレッチ)
肩甲骨の内転が出来ないと腕のみのスウィングになってしまい、痛みが何度でも出ます。
大胸筋・小胸筋の柔軟性が乏しいと肩甲骨の内転がしっかり行えないので、エクササイズと同時にストレッチもしましょう。
横向きで肩甲骨を内転しながら、上肢を水平外転します。
(上肢の水平外転=腕を外側に上げ、そこから後ろに引く運動)
そのままゆっくり後ろにもっていくことで大胸筋のストレッチになります。
「腱の柔軟性・血流促進方法」を参考にすることで小胸筋にもアプローチできます。
柔軟性が乏しい選手に行うとストレッチが強くかかり過ぎてしまいますので、本人にストレッチ具合を確認しながら行いましょう。
セラピスト向けのリハビリの勉強
セラピスト向けのリハビリメニューはこちらを参照して下さい。
上腕二頭筋のテーピングの張り方
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ここではシンプルな上腕二頭筋へのテーピングのやり方を記載してあります。
上腕二頭筋に痛みがない範囲で、肘を伸展(肘を伸ばす)と肩を伸展(腕を後ろに引く)し、その状態で貼っていきます。
長頭腱だけでもいいですが上記で説明した通り上腕二頭筋は長頭と短頭がありますので、一応二つに貼りました。
①一枚のテーピングで片方の先を二つに切る:太さは5.0を使用
②別々のテーピングを二枚貼る:3.8を二枚使用
テーピングについてよくわからないとう方は下記のページで説明してあります。
特におすすめは キネシオテーピングの比較・ランキング です。
あなたにぴったりのテーピングが見つかるはず!?
下記もどうぞ
肩の前の痛み、上腕二頭筋長頭腱炎のまとめ
- 肩の前に痛みがあり、腕を後ろに引いたりズボンを上げると痛みが強くなる
- 腕を後ろに引く動作が必要なスポーツに上腕二頭筋長頭腱は多い
- 原因は上腕二頭筋の張りよりもよくないフォームでの使い過ぎにある
- 治療は痛みが強いならアイシングと安静、落ち着いたら背骨や肩甲骨を動かすリハビリが必要
このあたりをおさえておくと上腕二頭筋長頭腱炎についての理解が深まると思います。決して患部だけに原因があるわけではありませんので、注意して下さいね。
最後に
リハビリでは胸椎の事までしか触れていませんが、本来どのスポーツでも当てはまることですが胸椎自体より、腰部から下が原因で胸椎に悪影響をもたらしてる事も多々有ります。
(野球ですと投球でステップの段階でバランスを崩していたら、正しい胸椎の運動や肩甲骨の運動ができるわけありませんので)
ですから胸椎もそうですが、下肢からのアプローチも言わずとも重要になりますね。
しっかりと身体の動きができれば痛みが出ることは少ないので、ストレッチや基礎的なこともしっかり行いたいですね。
以上で「上腕二頭筋長頭腱炎」の説明を終わりにします。